調律気まぐれ日記 vol.18
~調律師は孤独~
ある日、初めてのお宅にお伺いした時のことです。
インターホンを押して出てこられたのはおばあさん。
お留守番のおばあさんで、調律に来ることは聞いていますということで、
ピアノのあるリビングに案内していただきました。
ピアノの横には大きなテレビがあり、消えていました。
いまから行う作業の説明をして調律を始めるとおばあさんは
部屋から出ていかれました。
1人で作業を進める私。
調律を始めて15分くらい経った時です。
おばあさんが部屋に戻って来られてテレビをつけたのです。
音も出して
私「えっ・・・」
どうして今、テレビを見るのかな。
そうか、なにか大切な番組があって、録画するのかな。
頭の中で考えをめぐらせていたその時です。
おばあさんが部屋を出て行かれました。
テレビをつけたまま、ドアをしめて。
困ったな・・・
調律しにくいなぁ
消していいものかな。
音だけでも消そうかな・・・
でも、わざわざつけに来たのだから何かあるに違いないから
勝手に操作してはダメだな。
よし、おばあさんにきいてみよう。
私「すみませーん」
おばあさん「はい、なんですか?」
私「あの~、テレビの音を消してもいいですか?」
おばあさん「いいけど、さみしくないですか」
私「えっ、さみしくないですけど、テレビが必要なのですよね」
おばあさん「1人で部屋に居たらさみしいかと思って・・・」
なんとやさしいのでしょう。
私が孤独なのがかわいそうと思ってわざわざテレビをつけに
来ていただいたのでした。
もちろん、独りが寂しい時はありますけど調律中は孤独がいいです。