調律きまぐれ日記 vol.10
素直な子供はかわいい?

ある日
いつものように保育園に調律にお伺いした時のことです。
幼稚園や保育園などから調律を依頼された場合は、できるだけ
園児のいない、時間帯か、休みの日にお伺いするのですが、その日は
どうしても園児のいる時間中しか都合が合わないので、仕方なく子供達の
中で調律をする事となりました。
その声と、走り回る音は凄まじいもので、ピアノの音など全くといっていい
程聞こえません。
どうしようかな?  と、考えていると、先生が子供達を集めて何か始める
様子です。
「これから、みんなで、ピアノの絵を描きましょう。今日はめずらしく
ピアノの中が見えているので、それを描きましょう。」
と、先生、なかなか良い考えです。
子供達も大きな声で「はーい」と、良い返事です。

さて、お絵書きが始まると、みんな一生懸命、画用紙に絵を書き出しました。
私がピアノの前で調律の作業をしているのを、にらみ付けるように見ては
画用紙に色を塗っています。
子供達も静かになって、私の作業も順調です。
私は、作業をしながら、ふと思いました。
なんかモデルみたいだなぁ、きっちりした格好で作業をしなくては、
変な調律師が描かれてしまうなぁ。
あわてて、カッターシャツも綺麗に直して、そのうえ、「調律入門」ていう
本があれば載っていそうな、調律姿勢をキープする事に、気をゆるめず作業
を続けました。
みんなどんな絵を描いているんだろう? いいのがあればいただきたいなぁ。
そんな事を考えながら、作業も終わりに近づいた時です。
「おっちゃん、ちょっとのいて、ピアノが見えへんわ」と、一人の男の子、
いや、一人のガキが、私に言いました。
すると、次々に、「私も見えへん」「僕も見えへん」と、今までの静けさが
嘘の様に、みんなが言い出すではないですか。

自分の耳を疑いました。
自分の目も疑いました。
作業を終えて、みんなの絵を見て見ると、調律をしている私の姿など、
どこにも描かれていないではないですか。
20人程いる園児の絵、すべてに、姿勢もばっちり決まった調律師はどこにも
描かれていないのです。
なぜ? 

先程の一人の男の子を捕まえさせていただいて、お尋ねしました。
私 「なんで、おっちゃんは描いてないの?」
男の子 「先生がピアノの中の絵を描きましょうって言ったから・・・」

なんて素直な子供達なんでしょう。
かわいくない!!!!

1