調律きまぐれ日記 vol.9
魔法使いなんていない

ある日
いつものように調律にお伺いした時のことです。
春休みってこともあって、子供さんがピアノの周りで遊んでおられました。
めずらしい事でもないので、気にもかけず、「一時間くらい静かにしててね」
と言って作業をはじめました。
理解のいい子供さん達で、「そしたら、シンデレラゴッコしよか・・・」と
隣のへやでなにやらドラマが始まりました。
遊んでいる子供は、訪問先の姉妹と、お姉ちゃんのお友達の女の子の一人です。
お姉ちゃんと、その友達は小学生で、妹は幼稚園です。
なになにゴッコとは、懐かしいなぁなんて少し楽しい気分で調律を進めました。

子供というのは、芝居になると標準語を使うんですね。
姉が、「私、お姉さんの役」
友達、「じゃ、もう一人のお姉さんの役」
妹、 「私はシンデレラ」
     良かった、一番小さい子がシンデレラで・・・やさしいな・・・
ここからは、セリフで書きますね。
冒頭のシーン
姉 「私達、これからテニスに行くの、シンデレラは留守番よ!」
妹 「はい、お姉さま・・・」
友 「しっかり、お掃除しておくのよ!」
姉達は、テニスの仕草。妹は床を拭く仕草
しばらくして
姉 「あぁー疲れた、テニスって疲れるわね・・・」
友 「そうね。シンデレラ! お茶をちょうだい!」
妹 「はい、お姉さま・・・」
お茶を入れる仕草
しばらくして
姉 「私達、これから食事に出かけるの」
友 「フランス料理よ、いいでしょ!」
姉 「シンデレラはお留守番よ!食べ物はなしよ!」
妹 「はい、お姉さま・・・」
料理を食べる仕草
しばらくして
姉 「あーおいしかった!」
友 「おなかいっぱい!」

姉 「私達、映画に行くの」
またまた、姉たちが楽しいシーンでシンデレラはつらい場面です。
そんな、事が、つぎつぎと続いていくのです。
私は作業をしながら、舞踏会のシーンになって、シンデレラが幸せになる
のを楽しみにしていたのですが、いつまで経ってもずーっと、シンデレラが
いじめられるシーンなのです。
恐くて、かなしい・・・
そんなことをしている間に、調律が終わりました。
私が、作業を終えると、突然シンデレラゴッコは幕をとじて三人はピアノで
遊びはじめました。
シンデレラの話を全部知らないのかと思って、三人に聞いてみました。
私 「なんで、シンデレラがいじめられるシーンばっかりなの?
   あの後、魔法使いが出てきて舞踏会に行くのしらない?」と、聞くと
姉 「魔法使いの役がいないんやもん・・・」
私、妹に「楽しい?」
妹 「うん!」
まあ、いいか、シンデレラゴッコはごっこで割り切っているみたいだから。
ピアノで仲良く遊んでいるし・・・
そうだ、私が、魔法使いになればよかったのかな?

でも私が魔法をかけられるのは、ピアノだけです・・・。

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