調律きまぐれ日記 vol.6
~おとなりも調律~


ある日。
いつものように毎年お伺いしているお宅へ、調律に向かいました。
ピンポーンとチャイムを鳴らすと、お留守番なのか、おばあさんが出て
こられました。
「ピアノの調律にお伺いしました」
「ご苦労さんです」
「おじゃましますね」
そう言って、階段?を、トントントントと2階へ上がってピアノに向かいました。
上の板と、ふたなどをはずして、いつものように調律をはじめました。
機嫌良く作業をすすめ、十分ほど経ったときです、「あれ?おかしいぞ?」
何かがちがう。
なにがちがう?
何となくちがう。
何なんだろう?
どこがちがう?
すべてがちがう。
よく見ると、ピアノもちがうし、部屋の雰囲気も、窓からの景色もぜんぜんちがう。
ピアノの上に置いてあったぬいぐるみも、ちがっている。
大きくちがうのは、なんと言っても、おばあさんがちがう。
「えっ? どう言うこと?」
こう言うことです。
私は間違って、お伺いするはずのお客様のお宅の、お隣さんにお邪魔していたのです。
何年も、同じお宅にお伺いしていると、無意識に車を走らせ、いつものように駐車
して、表札など確認もせず、いつものようにチャイムを押していたのです。
おばあさんも、おばあさんです。
見知らぬ人を家に上げてはいけません。
見知らぬ家に上がってもいけませんね・・・
おばあさん曰く、いつも調律の時は、私が留守番をしているので、今日もそれだと
おもっていたそうです。
あわてたのは私です。
それからすぐに作業を元通りにして、ピアノを組み立てて、急いで本来お伺いする
予定だった、お隣さんへ向かいました。
「ピンポーン」
「こんにちは、ピアノの調律にお伺いしました。」
「そうよね、我が家も、今日、調律だったよね・・・あんまり遅いんで、今電話を
しようかって思っていたのよ・・・お隣にも調律の方が見えているみたいなので、
偶然てあるものなのね・・・ってびっくりしていたのよ」
「あっ、そうですか・・・本当に遅くなってすいません」
そう言って、トントントンと2階へ上がって、見慣れた風景と、見慣れたピアノに
思わずため息がでてしまいました。

そういえば、こちらに「おばあさんはおられなかったなぁ」


 

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